相続税申告(相続発生後)
相続税の申告に関する書類
1 相続税申告と必要書類
相続税の申告を行うためには、多くの書類が必要です。
亡くなられた方の財産は、たとえ家族であっても相続財産を正確に把握している場合は多くありません。
相続財産を把握するためには、適切な書類を取得する必要がありますので、ここでは具体的に申告に必要な書類をリストアップし、その概要を説明していきます。
2 基本的な書類
まず、相続税がかかるかどうかという基準の金額を基礎控除額といいます。
その基礎控除額は、法定相続人の人数で決まるため、人数確認のために各種戸籍が必要になります。
具体的には、相続人を確定するために、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を取り寄せる必要があります。
また、各相続人の続柄を証明するためであったり、相続人が存命であることを確認するため、相続人全員の現在の戸籍謄本も必要となります。
死亡したことを証明するため、相続税を提出する管轄税務署を決めるために、被相続人の除票が必要となります。
納税者の現住所の確認のために、相続人全員の住民票も必要です。
さらに、相続人関係によっては、更に戸籍が必要となることもありますので、注意が必要です。
3 相続財産に関する書類
相続財産の中に不動産がある場合、相続財産である不動産の権利関係を確認するため、不動産登記簿謄本必要となります。
不動産の評価額を確認するために、固定資産税評価証明書が必要です。
賃貸物件がある場合には、賃貸物件の収益状況を確認するために土地や建物の賃貸借契約書が必要となります。
また、預貯金通帳の写し、有価証券の残高証明書も必要となります。
保険金の受取額を確認するため、生命保険の証書や支払通知書が必要となります。
他にも、自動車、貴金属、退職金、事業用資産がある場合には、適切な書類を確認する必要があります。
4 債務やその他に関する書類
マイナスの財産を確認するためには、借入金の残高証明書、未払医療費の明細書、葬儀費用の領収書を確認することが多いです。
他には、遺言書がある場合には遺言書、遺言書がない場合には、基本的には遺産分割協議書が必要となります。
5 税理士と相続税申告に必要な資料
上記は基本的な資料ですが、相続財産の内容、申告の内容によっては、特例の適用に必要な書類、各種控除のために必要な書類を調べて用意する必要があります。
このように、相続税申告に必要な書類はたくさんあり、細かな確認が求められます。
各書類の収集には時間がかかるため、早めの準備が重要です。
書類の不備や漏れを防ぎ、正確な申告を行うために、税理士といった専門家に相談することをおすすめします。
相続税を適切に申告・納付しないとどうなるか
1 相続税の申告の必要性の確認
相続税の申告や納付期限を守らないと、ペナルティや延滞税が課されることがあります。
具体的には、相続開始日の翌日から10か月以内の相続税の申告期限までに、相続税の申告を行わなければ無申告加算税というペナルティが課されます。
また、申告期限内までに申告したものの適切な相続税申告が出来ておらず、相続税が本来納付すべき金額よりも少ない相続税を納付すれば、過少申告加算税というペナルティが加算されます。
なお、自主的に相続税の修正をした場合には、過少申告加算税は課されないので、相続税申告の内容の間違いに気づいた場合には税務調査が行われる前に自主的に修正の申告をすることをおすすめします。
申告期限までに相続税の納税が出来なかった場合には、本来払うべき金額に対して日割りで延滞税が課されることがあります。
この延滞税は、上記の無申告加算税や過少申告加算税とは別に課されます。
2 相続税と差し押さえや強制措置
相続税の納付を怠ると、税務署は相続人の財産や銀行口座を差し押さえるなどの強制徴収の方法を取ることがあります。
さらに、可能性は低いですが相続税の未納が悪質かつ金額が多額であれば、脱税で逮捕される可能性もあります。
過去には、遺産を隠し1億円以上の相続税の納付を免れようとしたとして、有罪の判決がだされた事例もあります。
こういったことを避けるためには、相続税の申告及び納付を期限内に適切に行うことが重要です。
正確な申告と納税を行うことで、延滞税やペナルティの負担を回避し、税務上のトラブルを防ぐことができます。
相続税の計算や手続きにご不安がある方は、税理士に相談し、適切なアドバイスを受けることが重要です。
相続税申告の流れ
1 相続税の申告の必要性の確認
相続が発生し、葬儀を行った後は、相続人が何人いるのか、相続財産にはどのようなものがあるのか等の調査を行い、相続税が発生するかどうかを確認する必要があります。
相続税の申告には期限が決められているため、早めに行動することが大切です。
しかし、そもそも相続税が発生するのか、相続税の申告をする必要があるのか、どの程度の相続税がかかるのか等、よく分からないとお悩みの方もいるのではないでしょうか。
そこで、まずは相続税の申告が必要かどうかを確認することから始めます。
2 相続税の基礎控除額の確認
相続税が発生し、申告及び納付する義務があるのかどうかを確認するためには、まず、相続税の基礎控除額を計算する必要があります。
相続税は、相続財産を取得した場合に必ず発生するというわけではありません。
被相続人の相続財産の総額が一定の金額を上回る場合に、相続財産を取得した方がその額に応じて、相続税の申告と納付をする必要が出てきます。
この相続税が発生する一定の金額を基礎控除額といいます。
基礎控除の金額は、3000万円+(600万円×法定相続人の人数)という計算式によって算出されます。
相続税のことが心配な方は、まず、基礎控除額を確認する必要があります。
3 法定相続人の確定の必要性
基礎控除額は、3000万円+(600万円×法定相続人の人数)という計算式によって算出されますので、最初に法定相続人の人数を確定する必要があります。
法定相続人の人数を確定するためには、最新の戸籍を確認するだけでは足りません。
戸籍は、制度が変わるたびに作り直されたり、結婚等により、今までの戸籍から出て、新しく戸籍を作ったりして、変遷をしていくものです。
そのため、被相続人の戸籍をさかのぼり、生まれた時から死ぬまでの戸籍のすべてを収集し、法定相続人の人数を確定する必要があります。
相続人であれば、市区町村役場で、戸籍謄本を取得することができますが、手間がかかりますし、戸籍を読み解く必要もありますので、専門家に戸籍収集を依頼して相続人を調査してもらうことをご検討されるとよいかと思います。
4 相続財産の確定と評価額の計算
次に、被相続人にどのような相続財産があるかを確認する必要があります。
典型的な財産の例としては、不動産、預貯金、株式、投資信託等があります。
預貯金であれば、額面がそのまま相続税評価額となります。
不動産の場合、相続税評価額は、毎年不動産の所有者に送られてくる固定資産税評価明細書記載の金額とは異なりますので、税理士に評価額の算定を依頼することをおすすめします。
5 相続税の申告書の作成と相続税の納付
法定相続人の確定、相続財産を確定、相続財産の評価が終われば、その情報をもとに、申告書を作成し、算出された相続税を納税する必要があります。
相続税の申告と納税は10か月以内に行う必要があるので、早めに動き始めることが大切です。
相続税の対象となる財産
1 相続税がかかる遺産にはどのようなものがあるか
相続税は遺産にかかるものと思っていらっしゃる方は多いですが、具体的にどこからどこまでが相続税の対象となる遺産であるかを明確に答えられる方は少ないのではないでしょうか。
原則として、亡くなった方が所有していた財産が遺産にあたります。
例えば、亡くなった方が所有していた自宅、貸駐車場、田畑、山林等の不動産や、銀行に預けている預金、証券会社で管理している株式等です。
さらに、普段は資産として意識していない保険契約に関する権利、建物更生共済の解約返戻金等も、財産となることもあるので注意が必要です。
民法上は遺産ではない場合であっても、相続税法上は遺産とみなす場合があります。
2 みなし相続財産
民法上は遺産ではないのに相続税法上は遺産である財産の代表例は、死亡保険金です。
民法上、原則として、死亡保険金は、被相続人の死亡という支払事由が生じた時点で、受取人である相続人の財産となります。
そのため、民法上の遺産ではありませんが、保険料は被相続人が負担していたことから相続人が受け取ることができる財産なので、相続税法上は相続税がかかる財産となります。
これを「みなし相続財産」といいます。
なお、死亡保険金は、法定相続人1人あたり500万円が非課税となります。
例えば、法定相続人が2人いれば、1000万円までが非課税となります。
3 相続税の非課税財産
遺産であっても祖先を祭るための財産については、相続税がかかりません。
例えば、墓石、墓地、仏壇、神棚といった財産です。
ただし、相続税を逃れるため、純金製の仏像等の仏具を購入していた等、不必要に高額なものであったりした場合には、相続税が課せられる可能性があるので注意が必要です。
一昔前、資産家の間で、純金製の仏具等を購入するのが節税対策で用いられたこともあり、税務署は厳しい目で確認をしてきます。
4 生前贈与の場合
生前に贈与された財産は、相続開始時点では相続人の財産ですので、遺産とはなりません。
そのため、原則として、相続税は課されないのですが、相続開始時期と近い贈与、又は特例の適用を受けた贈与については、その贈与額を相続財産の額に加算して、相続税を計算します。
具体的には、2023年12月31日までは相続人又は受遺者に対して相続開始3年前までに贈与された財産及び相続時精算課税制度適用贈与は相続財産に加算されますので、注意が必要です。
なお、2024年1月1日以降の生前贈与については、加算対象期間が段階的に7年に延長されます。
また、相続時精算課税制度の選択をして贈与した場合については、年間110万円超えた部分の金額について、相続財産に加算して相続税が計算されることになります。
相続税の申告期限
1 相続税の申告と納付の期限
相続税の申告は、相続開始を知った次の日から10か月以内に行う必要があります。
ちなみに、相続税の納付も相続開始を知った次の日から10か月以内に行う必要があります。
相続開始を知った次の日から10か月後が土日祝日で、税務署が開庁していない場合には、翌開庁日が相続税の申告期限および納付の期限となります。
なお、相続税の申告は、相続人の最寄りの税務署ではなく、被相続人の住所を管轄する税務署に提出する必要がありますので、注意が必要です。
2 相続人が重度の認知症だった場合
相続人が重度の認知症だった場合、判断能力がないため、相続開始を知ることができません。
そのため、相続税の申告期限が通常の場合とずれることになります。
そもそも相続人が重度の認知症の場合は、判断能力がないので相続税の申告をすることもできないため、成年後見人の選任をする必要があります。
そして、その成年後見人が相続開始を知った日、つまり実務上は成年後見人の選任日となり、その日から10か月以内に申告をすることになります。
なお、このような場合でも、他の共同相続人の相続税の申告期限が伸びることはありません。
相続税の申告期限は、相続開始を知った日が人によって異なる場合があるので、申告期限も人によって異なりますので注意が必要です。
3 相続税の申告期限より後に申告した場合
万が一、相続税の申告が間に合わず、期限より後に申告した場合には、無申告加算税に加え、納税が遅れたということで、延滞税も納める必要があります。
無申告加算税の割合は、期限後申告のタイミングによって以下のように異なります。
⑴ 税務調査前の申告
具体的には、税務調査が始まるまでに自分から申告した場合には、納付すべき税額に加えて、5%の無申告加算税がかかります。
申告期限から1か月以内に自主的に申告を行い、かつ、期限内に申告する意思があったと認められる一定の場合に該当すれば、無申告加算税が免除されるケースもありますが、非常に限定的な要件を満たしている必要があります。
⑵ 税務調査の通知があってからの申告
更正等の予知前までに申告をした場合には、納付すべき税額に加えて、原則として50万円までは10パーセント、50万円を超えて300万円までの部分は15パーセント、300万円を超える部分は25パーセントの額を追加で納付する必要があります。
更正等の予知後の申告をした場合には、納付すべき税額に加えて、原則として50万円までは15パーセント、50万円を超えて300万円までの部分は20パーセント、300万円を超える部分は30パーセントの額を追加で納付する必要があります。
相続税に関する代表的な特例
1 相続税を安くするための代表的な特例
相続税は、通常、相続財産を評価した上で算出しますが、国は、一定の条件を満たすことを前提に税金を安くする特例を用意しています。
それは、自宅を相続する人や被相続人の配偶者のその後の生活が著しく困難にならないように配慮されたものです。
代表的なものとしては、配偶者の税額軽減の特例や小規模宅地等の特例があり、相続する財産、相続人によって適用できるかどうかが変わってきますので、注意が必要です。
2 小規模宅地等の特例
この特例は、土地を相続する相続人が受けられる特例ですが、すべての相続人が受けられるわけではありません。
また、特例の適用を受けることのできる限度面積が定められています。
この特例の適用を受けられれば、最大で80%土地の評価額を減額することができます。
例えば、一億円の評価の土地であれば、この特例の適用を受けることによって、2000万円の評価となり、8000万円の評価の圧縮ができます。
小規模宅地等の特例の対象となる土地は、3種類あります。
この特例の適用ができるかどうかによって相続税の金額が大きく変わってきますので、特例の適用をできるかどうか、税理士に相談することをおすすめします。
3 配偶者の税額軽減の特例
この特例の適用を受けることができるのは、被相続人の配偶者です。
婚姻関係にない内縁の配偶者の場合は、適用を受けることができませんので、注意が必要です。
配偶者は、この特例の適用を受けることによって、相続財産を1億6000万円又は法定相続分のいずれか高い金額まで受け取っても相続税がゼロとなります。
財産は共同で築きあげるものであるという考え方、残された配偶者の生活を守るためという考え方からこの特例ができたといわれています。
4 特例の適用のために必要なこと
上記の特例の適用を受けるためには、相続税の申告書の提出が必要であるほか、分割協議が成立していないと適用ができないといった条件もあります。
相続税を抑えたいという方は、税理士に相談することをおすすめします。